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- ごー♡うえすと 4
西へ行こう<br>(一緒に) 海辺の暮らしを楽しもう<br>(一緒に) 学び、教え合おう<br>(一緒に) 生き方を変えて<br>(一緒に) 働いて努力をしよう<br>(愛してる) 君も僕を愛してくれているはずだ<br>(君が欲しい) 反対するわけがないよ<br>(だからこそ) 何も異論はないよ<br>(君が言うなら) 後はすべてを君に任せるさ<br><br>コウキ<br><br>「あれ?このオッサン見覚えがある。でも、客の一人では無い…な。<br>俺、寝た男はほとんど忘れないから。<br>でも、何処かで会ったよな?思い出せないけど」と頭の中で自問自答しながら、「ありがとうございます」と目の前にグラスを置かれたら断り様がないシチュエーションに、軽く口角を上げていつもの笑顔を作ってお礼を言った。<br>「さっきからの流れだと、どうせカズトのファンの一人だろ?」と笑顔を崩さないまま心の中で俺は毒づく。<br>しかし、どいつもこいつもカズトカズトカズトとのオンパレードだ。<br>いい加減聞き飽きるわ。ゴーゴーの一人や二人消えたからって何だって言うんだ。<br>カズトがいなくなって周りのゴーゴーたちもマジ内心はホッとしてんだろ。アミカのコンサートの出演オファーだって最初は俺にきていた案件なのに、後からカズトが全部持っていった。おまけにMVまでちゃっかり出ている始末。何なんだよ!マジ最悪!<br>この半年でゴーゴーの頂点?あんな奴のどこが良いんだよ。<br>カズトが現れなかったら俺たちのバランスも取れていたし、宗だってあんなふうにならなかったんだ。<br>今ここにいるオッサンだって、どうせカズトに入れ込んで捨てられた内の一人だろ?<br>だいたい未練がましいんだよ。何、思い出に浸りに来てんだよ。<br>カズトが行き先を知らせないのはオッサンに興味がなかったってことだろう?いい加減現実を見ろよ!と、俺は笑顔を作りながらそんな風に思っていた。<br>「お客さん紹介するわァ。この子はコウキよ。カズトと同じゴーゴーでェ~一緒にアゲハで踊っていたの。そうそう、台北やバンコクのイベントにも一緒に行っていたわよネ?」<br>「僕の方が二年位キャリアは長いですけど、カズトはあのルックスなのでいきなり入って直ぐにセンターの扱いでしたよ。もちろんご存知だと思いますけど」と軽い嫌みな言い方に自分自身が少し驚く。<br>オッサンは唇を歪めて苦笑いをしている。<br>「あっ、でもしょうがないことです。この世界は見た目が全てで、カズトがスペシャルなことは誰もが納得している事実ですから」って、俺、いったい何フォローしてんだろう?本当にいつも中途半端な態度しかできないよな。子供の頃から相手の顔色ばかり見ちゃうんだよ。<br>どうでもいいはずの相手なのに、目の前のオッサンの左の眉毛が下がってきたのが少し寂しそうに感じてしまったせいだ。<br>「でも、どこで会ったんだろう?」と今までの記憶をたどってみても中々たどり着けない。第一、こんなに背骨が曲がっていたら忘れるはずもないよな。<br>「あらヤダっ、コウキも売れっ子でしょウ?週末なんて休んでる暇もないんじゃないのォ?ね~圭太?」<br>「どうせ僕は売れないゴーゴーですよ!」と急に振られた圭太は肩をすくめて笑った。<br>「コイツも内心はどう思ってんだろう?俺なんかよりずっとカズトと近かったと思うけど…意外といなくなって喜んでたりしてな」とネガティブな自分自身の気持ちのあり方にウンザリしそうになる。<br>俺ってマジでちっせえ。基本何でも悪く考えるきらいがあるよな。<br>みんながみんな自分と同じ気持ちではないことは理解しているよ。だけど、誰でも少なからず嫉妬心を持ってるもんだろ?<br>実際にカズトがスペシャルだったのは事実だけど、そのために仕事もだいぶ持ってかれたのもハッキリとした現実だよな。<br>本当に、今までどこに潜んでいたんだ?そう思うくらいカズトを見た最初の衝撃は大きかった。<br>アハハ、新木場のアゲハのフロアにいきなりとんでもないものが舞い降りたって感じかな。マジで度肝を抜かれたよ。<br>アゲハは五千人以上収容できる都内で一番大きい箱だった。元は物流の倉庫を改造したものらしいが、敷地の中に温水プールまで作ってある。<br>パチ屋が鳴り物入りで始めたもので、毎月末のゲイイベントは集客率が最も多い目玉イベントになっていて、もちろん外タレや、芸能のイベントも行われていた大箱だ。<br>が、だったーの過去形なのは、先週借地契約の満了でクローズしたばかりだったからだ。<br>そこで、二十人弱のゴーゴーはフロアを盛り上げるために下着一枚で踊る。オプションで、客はチケットを買って目当てのゴーゴーとキスとハグができる!と言うのが売りになっていた。<br>まあ、そのチップが俺たちのギャラになるんだけど、人気の有る無しは明確に表れるってわけだ。<br>あの時のこと、フロアから上半身裸になったカズトが突然ステージに上がってきた瞬間を、俺は今でも鮮明に思い浮かべることができる。<br>稀に外国人の酔った客が無理やり上がって来ることがあった。そんな時はセキュリティーが直ぐに下のフロアに引き戻していた。でも、カズトにはそれはまったく通じなかった!<br>セキュリティーも客も、ステージのゴーゴーさえも一瞬で惹きつけられて、何もできない状態になっていたから。フロアの全視線が一点に集中しているのがわかる。<br>アゲハにいる誰もがカズトの一挙手一投足に魅入られていたんだ。<br>「マジかよ…」と隣にいたベテランゴーゴーが思わず洩らした声を今でも忘れられない。<br>ゴーゴーたちは商売柄鍛えていたし、それなりのレベルの顔面偏差値をしていると思う。しかし、そんなもの関係なく全てを凌駕してしまう、強い存在感を隠さないでカズトは放出していた。絶対的なモノの前では他の奴らは単なるモブのようになってしまう。<br>たぶん、努力なんかでは埋まらない。そんな存在感。その時初めて痛感した。<br>なろうと思っても手が届かないものもあるのだ。カズトの並びにいる自分を酷く惨めなものに、現実はどうしようもないものだと、そこにいたゴーゴーたちは皆、突き付けられていたはずだ。<br>「眩し過ぎて正視できない!」そんな感じだ。<br>気づいたら、誰もが棒の様にステージに立ち竦んでいた。ゴーゴーたちは絶対的な魅力の前に、自分たちがどうしていいか分からなくなってしまったんだ。<br>でも、そんな周りの状況など気にも止めない風にカズトは踊っていた。<br>バルクがそんなにあるわけでもなく、どちらかと言えば身体全体に薄く脂肪が乗っていて、見方によってはポッチャリ気味の身体に汗がまとわりついてライトにチカチカと反射していた。<br>まだあどけない子供っぽさを残した表情が見る者に妙な安心感を抱かせる。それでいて、動きの一つ一つが妙に色っぽくて印象的だ。<br>アンバランスな感じが余計に想像力を掻き立てるのかもしれない。<br>「誰もが気になって目を離せない!」そんな魅力がカズトにはあった。<br>それでも俺は好きになれなかった!<br>いつでも、誰もが大事に扱っていた。本人はそれに気づかない的に天然な振る舞いが余計に俺をイラつかせた。<br>そんな俺の態度にもカズトはお構いなしになついてくる。無防備に絡んでくる。子犬みたいなやつだと思った。<br>その辺も本当に苦手だった。嫌いだった。<br>カズトを見てはイライラが止まらなかった。<br>本当に何も考えていないのかもしれない。例えば俺がワザと足を掛けてカズトが転んでも、足を掛けた俺のことを笑って振り向いて、その後も全然気にしないで全て無かったことのように接してくる。<br>「マジでムカつく!」そうだ!俺はカズトにムカついていた。<br>もう、怒りに近いほどの感情を抱いていたんだ。<br>宗がハッテンサウナの屋上から飛び降りて、隣のビルとの境界線の鉄柵に身体が突き刺さったまま逝った。<br>銛で突かれた魚のように、うつぶせでちょうど身体の半分をシルバーの柵が貫いて突出した赤い血の色に染まった先端が朝日に反射して光を放っていた。見ようによっては美しくもあったが、ヤッパ死体で。<br>俺は、うなだれた坊主頭の見慣れたシルエットに思わず目をそらしてしまったが、その画像を見てもカズトは大したリアクションを起こさなかった。いつもと同じ軽く口角を上げたアヒル口のままチョッと眉をひそめる!そんなものだ。<br>わざとらしくオーバーなリアクションを取られてもコッチが引くけど、何だろうな、人が死ぬことに関心が無いというか死ぬことも認めている?これ死んでんね。そりゃあ死ぬこともあるかもね?そんな感じの塩反応だった。<br>宗が死ぬ直前にカズトにラインメールを送ったと他のゴーゴーの一人が言っていたのを突っ込んでみても、これっぽちも反応しなかった。<br>忘れている。驚くくらい宗に関心がないんだ。<br>宗は抗うつ薬の飲み過ぎでヘロヘロだったと言われている。でも、本当はヤク中で精神もかなりヤバイ状態になっていた。周りもそれに気づいてはいるけど誰も口には出さない。そんな暗黙のルールが成立していた。<br>「やめろ!」と一言言えば良いだけなのに誰一人として言わない。<br>誰も真剣に止めない。俺たちは余計な嫌みは上手く言ってのけるのに肝心なところは言わない。言えない。<br>おおかたのゲイは他者との関係の持ち方に苦手意識を持っているはずだ。<br>よっぽど能動的に克服しない限り、社交的なそれこそ根っからオープンなタイプのゲイなんてほとんど見たことがない。<br>そう言う俺だって、初めて会った人と直ぐに仲良くなるなんてどう逆立ちしても無理な話だ。自分を強く大きく見せようと初対面で高圧的な態度なるのは、気が小さくて極力自分が傷つかないようにしたい反動でそうしてしまうんだ。<br>情けないけど本質はそんなものだ。相手の出方を恐る恐る探っていく感じで、中々腹を割ってお互いの距離を縮めることができない。自分でもまどろっこしいけどそういう性質だから仕方ない。<br>そのうえ、他人の気持ちより俺も含めて自分の気持ちが一番大事な未成熟で子供っぽいわがままヤツしかいない。見たことがない。<br>内心は素直に自分の想いを相手に伝えて受け入れて欲しいのに相手の気持ちを聞こうとはしない。まったくバランスが悪い。幼児並みだよ。<br>そのへんがカズトは違った。生まれながら愛されるようにできているからだろうか?<br>俺のようなおずおずとしたぎこちない気持の揺れなんて少しも感じさせない。どんなタイプとも最初からスムーズにコミュニケーションがとれる。<br>と、宗が飛び降りるまではそんな風に見えていた。<br>俺は、カズトが人懐っこくて他人との距離感が全くないタイプに思えていたからこそ、宗の飛び降りで余計に変な違和感を覚えてしまったんだ。<br>カズトが俺の予想通りの反応、こうするだろう的な予定調和な動きを示さなかったからだ。<br>少なくても最小限にしても、人の死に対する普通なリアクションがあんだろうと勝手に俺は決めつけていた。<br>今、あらためて考えてみてもカズトは宗にまったく何も少しも興味が無かったからで。カズトの本質は宗というより他人に何も関心をもっていない。<br>そうだ、他人を眼中にない。って、ことに気づいたんだ。<br>だから依存しない。する必要がない。興味が無いから相手の思惑を探る必要もない。<br>自分を守る壁がない分他人にとっては接しやすくなる。<br>カズトに人が寄っていくのはカズトに気持の余裕があるようにこちら側が勝手に勘違いするからなんだと。<br>俺みたいに自分の強い緊張が相手に伝わると相手も俺以上に疲れてしまうから、相互関係で両方がひたすら疲弊するっていう悪循環が俺に人が寄って来ない元凶だ。もちろん十分に分かってる。<br>俺がカズトにイラッとするのはカズトに憧れているからで。自分の性質がイヤでイヤでイヤでどうしようもなくて、それでもカズトみたいに皆に愛されたいと心の何処かで思っているからで。嫌いってことはそれだけカズトのことが気になるってことなんだと、本当は気づいてもいた。<br>カズトは俺がどう転んでも手に入れることのできない憧れの性質を持っているからだ。<br>「でっ、今更カズトに会ってどうしようというんですか?」と、本来の俺らしく相手の困ることを聞いてみたい、そんな意地悪な気持ちが湧いてくる。きっと、目の前のオッサンは少し困った顔をして軽くタメ息の一つでもつくんだろうな。<br>そんな他人の態度に俺はまた落ち込むと思うんだ。まじめか。<br> <br> つづく~
2025/07/08 - 愛がなくっちゃネ💕29
ハブアナイスゲイ~<br><br>皆様いかがお過ごしですか?<br><br>6月の終わりから30度超えの熱気と湿気の不快指数200%の毎日!<br>日光を反射する国道のアスファルトの上では、老人には違う世界からの手招きが見える気がするマボロシ~的な極限状態。
2025/07/03 - ごー♡うえすと 3
(一緒に)僕らの道を行こう<br>(一緒に)いつか出発しよう<br>(一緒に)手に手をとって<br>(一緒に)計画を立てよう<br>(一緒に)高く飛ぼう<br>(一緒に)友人たちに別れを告げて<br>(一緒に)新しく生活を始めよう<br>(一緒に)これが僕らのやることなんだ<br> <br>K<br><br>「そりゃあもうキレイだったわよォ~」と百八十は余裕で超える身長に、体重は低く見積もっても百五十はあるだろう。<br>丸いバランスボールのようなシルエットの体を横に傾けて大袈裟にシナをつくりながら店のママは言った。<br>派手なドラッグメークに鮮やかで突き刺さるような赤いウイッグの化繊の質感がフェイク感をより強調している。<br>自分で手作りしたという黒いラメ入りのドレスにはこれ見よがしにパールが散りばめられていて、薄暗い店の照明の下でも一瞬目を細めてしまいたくなるほど眩く光を放っている。<br>ほとんど露出している白い肉付きの良い肩は、多分本人の意図に反して勇ましい相撲取りを連想してしまうほどのボリューム感だ。<br>それにしても体臭が気になる。<br>ほとんど換気しない狭い店だと尚更気になってしまう。<br>しかし、太っていると性別関係なくチーズを煮詰めたような匂いを周りにアピールしているケースが多い気がする。<br>この独特の香りを好きだという趣味もあるのは想像できるが…。<br>「やだ~、今日は出勤前に時間がなくてメイクも控えめなのォ」と何となく褒めて見たら豪快に笑って言った。<br>見た目は過剰な女らしさをアピールしているのに仕草はむしろ男らしい。<br>そこはどうでもいいのだろう。ニューハーフのように女性らしい所作は少しも求めてないのだ。<br>ニューハーフでさえくしゃみや鼻をかんだりするのに女性がしないような大きな音をたてたり、椅子に座ってから気づくと足を広げ過ぎて下着が見えてしまっているのに出くわしたことがある。<br>その時は、見た目とのギャップに面食らったものだが。<br>一般的に女性は男性側から見た女性らしさというものを子供の頃から強要されて育っている。<br>こうあるべきだと知らず知らずのうちに刷り込まれている。<br>男として育ってきた我々がいくらか女っぽいとはいえ、一石二鳥でできるものではないということだ。<br>しかし、このドラッグクイーンの格好をなぜするのだろう?<br>どこが面白いんだ?<br>キッカケがあるにせよ本人たちは楽しいからやってるわけで。と、考えて見たがそんなもの最初から私のように世間体を気にするようなタイプはこんな仮装はできないし、はなから理解できないものだと思う。<br>まあ、そんな私から見ても単純に楽しそうだし、暗い憂鬱な雰囲気がないから周りも見ているだけで明るくなる力を持っていると思う。<br>私には一生できない、やる選択肢もないし、その姿を自分でもまったく想像できないな。<br>ある意味その度胸をうらやましくも感じる。<br>しかし、この承認欲求の塊だらけの二丁目の中でも、全身で自分のセンスで存在をアピールしているドラッグクイーンというジャンルは、わりかし分かり易いタイプの人種かもしれない。<br>一口にゲイと言っても好みによってかなり細分化される。<br>目の前の巨漢もママも、肉専と呼ばれる太った男が趣味のゲイから見たら最上級の存在かもしれない。<br>二丁目に捨てるゴミはないと言われているが、それはどんな体型でも少なからず需要はあるってことで、そう言う意味でオールジャンルに愛されるはずのあの子の存在は余計に希少価値があるということだ。<br>少し前までは世界でも有数のゲイタウンの新宿二丁目は全盛期四百以上の店が狭い範囲にひしめいて、週末ともなれば街の中央に走る「中通り」は人で溢れかえって賑わっていた。<br>そのほとんどが、パートナーや遊び相手を探す男たちだ。<br>それもこの二十年のSNSの普及で街は変わった。<br>主な原因は出逢いの手段がネットに代わったからで、わざわざ飲みに出なくても男を簡単に探せるようになった。<br>簡単なプロフと画像でおおかたの雰囲気は分かるから手間がかからない。<br>カタログの商品を選ぶみたいなものだ。<br>合理的ではあるが私たちのような世代からしたら面白味には欠けるような気もする。<br>それに年齢を正直に六十にしたら、ほとんど誘いのメールも来ないのが現実で、ネットの中も年寄りには優しくはないということだ。<br>そんなSNSの普及が、二丁目に静けさをもたらすようになったと思う。<br>まあ、二丁目に限ったことではなくて他の繫華街にもそれは言えることではあるが。<br>コロナの流行はサービス業を含め町の立ち位置にかなりに変化をもたらしたわけで、今日だって、二丁目は週末にしてはひっそりとしているように感じる。<br>しょうがないとはいえ、以前の賑わっている頃を知っている私たちからしたら少しばかり寂しい気持ちを拭いきれないかな。<br>それでもまだ、ゲイ仕様のビデオボックスにゲイ専用のサウナ、都内には一度に千人収容できるサウナが二つもクローズしないで存在している。<br>広めのマンションを乱交の場所にしている「ヤリ部屋」と呼ばれるクルージングスポットは好みに合わせて百近くはある。<br>それらも存在を維持するためには、やはりインバウンドの訪日外国人に期待をするしかないようで、この十年で日本人以外のアジア人の姿が多く見られるようになった。<br>中通りで目に付く店も、わりかし最近になってカミングアウトを始めたレズビアンの店が多い気がする。<br>男に性転換した元女のママの対象が女性という店が流行っているらしいが、これも時代が進んだということか。<br>それにインスタやティックトックで自分の店のアピールをするママが増えたので、今来た中通りでも、かなりの数のノンケの女性グループが楽しそうにはしゃいでる姿が見受けられた。<br>ゲイに比べて女性の方が金払いもいいから、店側はゲイだけを相手にするよりもミックスで店に女性も招いた方が儲かっていると聞いた。<br>それはゲイも含めて男の方が金に細かいというか、ややセコイやつが多い、見栄で他人に使うことはあっても自分自身には使わない傾向があるからだろう。<br>「カズトったら突然消えちゃったんでしょう?まあ、この町じゃあ良くある話よネ。でも、あんな完璧な子って、ホントめったにいないわョ!」<br>「アタシもクラブのイベントで何度か一緒になったけど、他のゴーゴーが霞んじゃって霞んじゃってマジで気の毒だったわ」<br>「あらヤダ、そこに圭太もいたのネ。ごめんなさい~もちろん私はあんた推しヨ!」と言うママの言葉にカウンター席の端でスマホをいじっていた青年が顔を上げて苦笑いを浮かべながら私のことを初めて視界に入れた。<br>「ママ大丈夫!カズト君は別格だよ!あまりにも違いを感じると嫉妬もできないよ」と言いながら再びスマホに目を落とす。<br>「で、お客さんもカズトに入れ込んだ口かしら?」<br>「わかるワー」とママは大げさに一言付け加えた。<br>「あんなに誰もが夢中になるような子、アタシだって一度でいいからお願いしたいもの」<br>「カズト君が断るんじゃね?」とスマホをいじりながら顔を上げずに圭太と言う青年はつぶやく。<br>「チョッと何よ、アタシだって化粧をとったらまだまだ野郎っぽさ全開でカズトだってイケルと思うワ。もう断言しちゃう!」<br>「ネエネエ~そうでしょう?お客さんもそう思うわよネ?」<br>「それにあの子って、老け専入っていたじゃない?かなりの数のお父さんたちを転がしていたって噂よ。特に中国人の金持ちとかサー」<br>「ごめんなさい~アタシも別に悪口で言ってるんじゃないのヨ。ただちょっとネ、ほら、あのルックスじゃあ周りがほっとかないものォ!」<br>「アタシだってあんな風に生まれたらァ、思う存分好き勝手にやっちゃうわ!ホント、誰も止められないくらいにサー」<br>「怖っ、でもカズト君は転がしてないよ。カズト君が本気で想っているのは一人だけだよ。それにママは今でも十分に好き勝手やってね?」<br>「少しもやってないわヨ!それより聞き捨てならないわネ!カズトの想っている奴って一体どこのどいつよ!」<br>「そうだなー」と言って圭太という青年は視線をママに向けると軽く微笑んだ。<br>「キャー、やめてェー!」<br>「やっぱり聞きたくないわ。だって、アタシじゃないことは確かだからサ!間違いなくネ!」<br>「そうだね。それは間違いないね!」<br>「うるさいわネ!おだまり!」<br>「それにしても暇だわー、アタシも飲もうかしら?やだ、二人に催促しているわけじゃないわヨ。あらそう?じゃあ頂くワ」と私たちの返事も待たずにママは自分の分のグラスにウイスキーとトマトジュースを注いだ。<br>カウンター席八つに、後ろにこじんまりしたテーブルが二つ、二丁目のスナックの平均的なサイズの店だ。<br>たしかに空いている。<br>金曜日の午後九時、まだ時間が早いのもあるかしれない。<br>すると、店内には私を含めて二人しか客はいなかったが、急に四人のグループが店に入ってきた。他人事ながら少し胸をなでおろしていた。<br>「あらァ~久しぶり!会いたかったワー」と昨日も来たという客に私の時と同じ挨拶をしている。<br>「今日は飲むわヨ~って、あら、アンタ、たしかカズトと同じグループだったわよネ?」とママは四人の中の一人に声を掛ける。<br>声をかけられた青年は、ただうなずいて店の中を軽く見渡した。<br>私と彼の目線が交差する。私の頭の上から足の先まで視線がたどる。が、興味の無い表情で彼はすぐにカウンターの中に意識を戻している。<br>「タイプじゃない!」と、そんな極端な態度にも落胆する気持ちは浮かんでこない。慣れている。<br>それに好みのタイプは様々だから。お互い様で、それこそ理想のタイプと出会えて、相手ともピッタリあうことなんて何年に一回あるかないかの奇跡みたいなことだ。<br>「彼に一杯あげてもらえる?あっ、もちろんママの分も一緒に」と、それでも無理に酒を勧めたのは、あの子のことを少しでも聞けるかも知れない。<br>そんな願い、希望、あの子を想ってのことだった。
2025/06/27